
更年期症状とホルモン補充療法について
女性のライフサイクルにおいて、閉経の時期は今も昔も50歳前後と変化していないにもかかわらず、平均寿命は伸び続けており、閉経以降の女性の人生が生涯の3分の1以上を占めるようになってきました。
この閉経前後の約10年間を更年期と呼びます。この時期には女性の心と身体に大きな変化が現れてバランスが乱れ、多種多様の症状が出現し、日常生活の質の低下をきたします。
このような心身の変調には、更年期に起こる卵巣機能の低下が深く関係していますので、減少した女性ホルモンを補充することが種々の症状の改善に極めて有効です。
1. 更年期障害とは?
更年期(一般的に45~55歳頃)は、卵巣機能の低下により女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少し、心身にさまざまな症状が現れることがあります。
~主な症状~
身体的症状
ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、めまい、頭痛、関節痛、疲労感など
精神的症状
イライラ、不安、抑うつ、不眠、集中力低下など
長期的な影響
骨粗鬆症、動脈硬化、泌尿生殖器の萎縮(膣乾燥、頻尿)など
2. ホルモン補充療法(HRT)の目的
エストロゲンを補うことで、更年期症状の緩和と長期的な健康リスクの予防を目指します。
~適応となる対象~
🔶 重度のホットフラッシュや発汗
🔶 膣の乾燥や性交痛
🔶 骨粗鬆症の予防
3. HRTの種類
~補充するホルモン~
エストロゲン単独:子宮摘出後の女性に用いられます
エストロゲン+プロゲスチン:子宮がある場合、子宮内膜増殖症を防ぐために併用します
~投与方法~
●経口剤:飲み薬(錠剤)
●貼り薬(パッチ):皮膚から吸収、肝臓への負担が少ない
●ジェル・クリーム:塗布タイプ
●膣剤:膣乾燥や萎縮に局所的に使用
4. HRTのメリット
🔶 更年期症状の劇的な改善(特にホットフラッシュ)
🔶 骨密度減少の抑制
🔶 膣の潤い改善によるQOL(生活の質)の向上
5. HRTのリスクと注意点
~懸念されるリスク~
●血栓症:特に経口剤でリスクがやや上昇
● 乳がん:長期使用(5年以上)でわずかにリスク増加(プロゲスチン併用時)
● 子宮内膜がん:エストロゲン単独使用でリスク上昇(プロゲスチン併用で回避可能)
~禁忌となる場合~
● 乳がんや子宮がんの既往歴
● 血栓症の既往や重度の肝障害
●原因不明の不正出血
6. 治療開始の流れ
① 問診と検査
血液検査(ホルモン値)、子宮がん検診、乳腺検査など
② リスク評価
個人の病歴や家族歴を考慮
③ 低用量から開始
症状と副作用を観察しながら調整
7. その他の治療法
●漢方薬:坤泰カプセルなど
●生活習慣改善:運動、カルシウム・ビタミンD摂取、ストレス管理
まとめ
HRTは更年期症状の有効な治療法ですが、リスクとベネフィットを踏まえて医師と相談することが重要です。
治療期間は通常5年ぐらいが目安とされ、定期的な検査を受けながら継続を判断します。
更年期の症状や治療選択肢についてお悩みの場合は、婦人科や更年期専門外来への受診をおすすめします。