心臓の病気2014年11月
外科医師和田 誠之

心臓の病気を考えるときに、まず血液を循環させるための「ポンプ」をイメージしてください。このポンプによる血液の流れを考える上で重要な物理的要素は3つあり、①前負荷②心収縮性③後負荷といいます。これら医学用語は専門的なものですが、分かりやすくいえば

❶前負荷:全身に流れる血液が充分にあって、その血液が静脈に集められてきちんと心臓ポンプに戻ってくること(急な出血や慢性の貧血、熱中症やひどい下痢などによる脱水ではこの要素に問題が生じます)。前負荷は心臓以前の問題です。

❷収縮性:筋肉の塊である心臓ポンプ自体がしっかりと拡張-収縮して血液をおくりだす力を出せること。この拡張性や収縮性が損なわれた状態が心不全で、心臓自体の問題です。原因は成人では(小児では先天性心疾患という発育段階の構造的な問題も加わります)大きく4分類でき、ⅰ)筋肉を栄養する血管(冠動脈)の流れに問題が生じる狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、ⅱ)心臓全体の動きを統制、調和する電気繊維(刺激伝導系)の網に問題が生じる不整脈疾患、ⅲ)血液や電気の流れが正常でも心臓の筋肉自体が弱ってしまった心筋症や心筋炎・加齢性の慢性収縮力低下など心筋疾患、ⅳ)心臓の内部構造である4つの心腔(心室と心房)の潤滑な血液の流れが障害されてしまう心臓弁膜症。以上、心収縮性の問題を生じる原因は4つあります。

❸後負荷:ポンプから血液をおくりだすときの大動脈など送血パイプの問題です。動脈血管抵抗が大きくなり心臓に負担をかける代表的疾患は高血圧症ですが、これらは心臓以後の問題と考えます。

心臓の病気はこのような色々な要素のいずれかに単一の問題が生じたとしても その後他の多くの要素に影響を及ぼすため、実際には複雑に影響しあった混合状態で症状が出現するところに難しさがあります。たとえば、電気繊維(刺激伝導系)に問題が生じる不整脈疾患では、心臓にある4つの心腔収縮タイミングがずれ心腔間の弁機能が障害されて血液が逆流したり、収縮機能低下で心臓を含めた全身臓器に酸素欠乏が生じます(冠動脈の血液酸素供給不足では狭心症となります)。静脈系血液も滞り全身浮腫や肺うっ血を引き起こして呼吸困難も生じ、細かな血管の枝分かれが多い脳血管などのうっ血では小さな血栓(血の塊)が出来やすくなって脳梗塞などのリスクも増加します。そして、心臓の病気の診断では、更にこのような多くの原因要素の増減や相互の関連性が時間経過とともに変化するという時間軸要素も考える必要があります(どの時点をみているかも重要です)。

したがって、私自身すでに30年以上も心臓臨床に携わりながら(頼りない医者だと思われますが)、心臓疾患疑いで受診された患者さんに「この症状は○○という病気です」と明確に説明できるケースばかりではないのです。現段階で可能性ある病名、病態を示し、この時点で投薬や対応が最も良く、どんな検査を考え行うべきで、そのためにはどのレベルの施設や専門病院にいつのタイミングで相談するのがよいか?など、また時には患者さんの上海赴任での社会的状況も考慮しながら最良な対応選択をすべく診療をしていることが少なくありません。

上海在留邦人年齢分布は60歳以下が主体で高齢者割合が少ないため(日本では心臓疾患分布は加齢性虚血性心疾患が主体)、疾患分布には特有の偏りがありますが、心臓の病気は一般の方々にとっても分かりにくく、また大変心配なものであろうと思います。「心臓に関係あるのかな?」と思うような症状があるならば、まず一度は医師に相談してみることをお勧めします。最後に強調しておきたいのは、心臓疾患は基本的には良性疾患なので、自己生活管理がとても重要な点です。心疾患を過大評価や過小評価することなく適切に向き合って生活管理したうえで治療継続するのが最も重要なことだと思います。

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